漆は持続可能な社会に向けた希望の光

公益財団法人 森林文化協会が発行の月刊誌グリーン・パワーにて、「漆で未来は変えられる」として、漆を切り口に持続可能な社会の実現を考えるウルシネクスト代表の柴田幸治による1年間の連載がスタートしました。
第一回目は「漆は持続可能な社会に向けた希望の光」として私の思いを書いてみました。


2015年国連加盟193カ国が全会一致でSDGs(Sustainable Development Goals)を採択しました。SDGsは2030年までに達成する17の目標を定めたもので、「持続可能な開発目標」と訳されています。

17の目標は、貧困、健康、教育、経済成長、気候変動、自然環境など多岐に渡っていますが、背景には社会が豊かになる一方で、その持続を脅かす程の危機的な問題があちこちで吹き出してきているという厳然たる事実があります。先進国、開発途上国を問わず解決に向けた取り組みが求められており、日本に対しては先進国の一員として、自国だけではなく国際社会においてその役割を果たすことが期待されています。

我々日本人に何ができるでしょうか?

日本人は豊かな陸と海に恵まれた場所で自然から恵みをいただき、自然を敬い畏れる心をもって自然と調和して生きてきました。そんな日本人が自然と共生した暮らしの中で大切にしてきたものの一つが漆です。

漆はウルシノキの幹に傷をつけると滲み出す樹液です。1滴1滴掻き集める手間と皮膚につくとかぶれるという厄介はありますが、いったん乾燥すると硬く、酸・アルカリ・熱に溶けず、抗菌作用があり、そして美しさをも備え接着、塗料、造形素材として優れた特性を持っています。

日本人は遥か縄文時代から漆という自然の恵みの価値に気づき、大切に守り育て、それを仏像、寺社建築、芸術品、漆器など多くの分野において活かし、日本の歴史と文化を作り上げてきました。漆は日本を語る上で欠くことのできない重要な要素であり、漆をはじめとした再生可能(=持続可能)な自然の素材を上手に活かしてきたのが日本人の知恵であるといえます。

しかし時代の変化と共に漆をとりまく状況は激変しました。今や店頭に並ぶ漆器といえば漆が使われていない合成漆器です。さらに使い捨てのプラスチック容器がそのまま食卓に並ぶことも特別なことではなくなりました。さまざまなものが簡単で安価に手に入るようになって我々の生活は一見豊かになったようですが、一方で想定を超える大雨や自然災害、環境汚染など、生命すら脅かす事態も次々と起きています。
どうすれば持続可能な社会に転換できるのか?私は長い間日本人の暮らしの基礎であった自然との調和と自然を活かす知恵にヒントがあると感じています。だからこそ日本人が大切にしてきた漆に改めて目を向けてみたいと思ったのです。

漆は地下資源と違いきちんと管理することでいくらでも再生可能な資源です。漆器は傷つけば修理もでき、味わいを増しながら何十年も使い続けることができます。使い続けることはゴミを減らす最強の方法であり、仮に海に流れ込んでも分解されプラスチックのように環境を汚染し続けることもありません。
漆をはじめとした自然の素材を廃れた過去のものとして捉えるのではなく、未来に向けた希望の光として捉え、日本人の知恵を加えることで、世界の持続可能な社会の実現に貢献できるのではないでしょうか。

寄稿先:公益財団法人森林文化協会発行 グリーンパワー1月号

グリーンパワー1月号 漆は持続可能な社会に向けた希望の光

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